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レディオヘッド『ザ・ベンズ』

この記事の最終更新日:2006年7月30日
ザ・ベンズ
ザ・ベンズレディオヘッド

東芝EMI 1995-03-08

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90年代ロック史を語る上で欠かせないのがニルヴァーナのフロント、カート・コヴァーンの自殺です。彼が亡くなったのは1994年4月5日。この日を私は、現代ロック史の歴史的転回点と位置づけています。

レディオヘッドのセカンド・アルバム『The Bends』の発売日は1995年の4月4日。カートの死からちょうど一年後です。ベックと並び、ニルヴァーナの後継者、ロックを牽引するアーティストとして期待されていたレディオヘッドが、カートの死から一年後に大ヒットアルバムを発売したことに、現代ロック史的なシンクロニシティを感じずにはいられません。

さらに言うと、レディオヘッドのデビューアルバム『Pablo Honey』の発売日は1993年の4月20日。偶然にもカートが自殺するちょうど一年前です。はるか太古から運命づけられていたかのように、レディオヘッドとニルヴァーナは精神的に共鳴しています。

レディオヘッドの音楽の真髄は、だめ人間的な、もてない若者の絶望を歌うトム・ヨークの歌詞にあります。社会にも自分にも何の期待も見出せない、か弱い文学青年の、頽廃的心情の発露……

2ndを聴いてからデビューアルバム『Pablo Honey』を聴くと、デビューアルバムは、ありきたりのギターバンドの音に聞こえます。レディオヘッドは2ndでその後の音楽表現の基本形を定めました。すなわち、エレクトリックギターによる暴力的音響だけでなく、アコースティック・ギターやシンセサイザーによる人間的温かみを帯びた優しい音色の多用、ファルセット(裏声)を多用する甘くせつないトム・ヨークのボーカル。

2ndアルバムの創造によって、レディオヘッドは凡百のギターロックバンドを超え出ました。優しいだけのポップスでも、激しいだけのロックでもない、深く温かいが、同時に絶望的なまでに陰湿な、レディオヘッドだけが奏でうる壮大で愛らしい音楽の創造が成されたのです。94年の4月5日から約1年の時を経て、ロック史は新しいステージにようやくさまよい出たと言えるでしょう。

「ニルヴァーナ以後」のロックはしかし、ユースカルチャー全般にとっての大きな指針とはなりえませんでした。レディオヘッドは時代の精神を伝える役目を担い、かつその役目を達成し、歴史的傑作を創造し続けましたが、オックスフォード出身の彼らが紡ぎ出す芸術作品よりも、もっと巨大で退屈なものが、90年代後半のユースカルチャーの基盤となっていたことは確かです。

3作目『OK Computer』を彼らの代表作とする評価が一般的ですが、個人的には『The Bends』に収録されている楽曲も、メロディアスで好きです。


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(c) Sidehill