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ベートーヴェン『交響曲第9番』(テンシュテット指揮)

この記事の最終更新日:2006年10月9日

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」
ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」テンシュテット(クラウス) ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 ヘガンデル(マリ・アンネ)

キングインターナショナル 2005-06-22

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年末にベートーヴェンの第九をみんなで歌って、聴いて、今年も終わりだねって盛り上がる、日本の新しい習慣に何だか恥ずかしさを覚える人におすすめ。これが第九だ!という壮絶な演奏。

はっきり言って私第九は嫌いでした。特に最終楽章の合唱部。いたるところで耳にするあのメロディー、こんなに日常生活のくだらない場面で聴いてしまったら、もうクラシックとして第九を楽しめないと思っておりました。

されど、この演奏で第九に対する認識が改まりました。テンシュテット晩年のライブCD。ベートーヴェンの五番と一緒に購入したのですが、五番は割りと肩透かし。これならカルロス・クライバーの方がかっこいいと思える演奏。しかし、第九は威風堂々、悲壮勇壮高揚歓喜。フルヴェンを超える、新たなスタンダードとなる名演。

第一楽章がこんなに深刻で悲劇的だったのだと初めて気づきました。憂鬱な気分の時、第一楽章を聞くと、癒されます。クラシックの暗い楽章はポップスみたいに憂鬱な気分一辺倒ではなく、暗い中にも明るく牧歌的な楽想が時々現われるので、気分が和らぐのです。とりあえず第一楽章がすごいです。

合唱後、最後の最後、猛烈な勢いで加速、一気に駆け抜けて演奏終了。聴いている最中から「こんなに高速でかっ飛ばして大丈夫か」とひやひやものです。終わりと同時に「あ、やっと無事演奏終わった」と安堵すると共に、すごい演奏聴かせてくれたテンシュテットに拍手喝采したい気分になります。現にライブ会場は大ブラボー。そりゃすごい興奮です。

ベートーヴェンの楽曲の中では、弦楽四重奏の、この第15番が一番好きです。

ベートーヴェン最晩年の作品です。渋くてうまい。
彼の交響曲みたいな派手さはありません。

クラシックの中でも弦楽四重奏はマイナージャンルだけど、家の中で、ステレオで聴くには弦楽四重奏がベストかもと思います。交響曲とか協奏曲は、大きなホールで聴くためのもの。音のダイナミクス幅も大きく、都会のアパートで聴くには、隣人の迷惑を考えてしまいます。

対して、弦楽四重奏曲は、もともと貴族が、自分の部屋で聴くためのもの。ホームパーティーなどに弦楽四重奏団を呼んで、紅茶でも飲みながらリラックスして聴く感じ。都会のアパート暮らしに、弦楽四重奏の優しく繊細な響きがよくあいます。

短調の曲であるこの15番は、どこかもの悲しい響きでスタート。一番の聴き所は第三楽章です! 蛙が池を飛び回るような軽快かつ滑稽で楽しげな音作り。聞いていると「わびさび」とか、「秘すれば花なり」とか、老荘思想とか、禅の境地とか、幽玄とか、もののあはれを連想します。きわめて東洋的で、最晩年のマーラーチックな、変わり種のベートーヴェンです。

これを聴かずに生きているのは、実にもったいないと思える人類文化の成果です。


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