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Cocco『ベスト+裏ベスト』

この記事の最終更新日:2006年10月9日

ベスト+裏ベスト+未発表曲集
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活動を再開した以上、このベストアルバムは前期Coccoのベスト盤と称した方がいいでしょう。

私がCoccoの、彼女にしかないものすごさを知ったのは、彼女の引退後、深夜に放送されていたドキュメンタリー番組を見た時でした。ミュージックステーションでの「焼け野が原」の絶唱。裸足で床に踏ん張り、鬼気迫る、危ない表情で必死に歌うCoccoの姿は、ショウビジネスのアーティストには見えませんでした。古代社会のシャーマンが、現代のテレビにそのまま出現した感じ。ある意味アーティストやアイドルは現代におけるシャーマンですが、Coccoは絶対他の歌手とは違うことを歌っていると思いました。

宮台真司が、椎名林檎は自分で自分を演出しているが、Coccoは本物だ、演じていないと言っていました。Coccoを模倣したプリミティブな女性歌手はたくさん出てきましたが、どの後発アーティストからも、Coccoほどのシャーマン性、現代消費社会の文脈から完全にはみ出してしまう神話的存在性を感じることはできませんでした。

Coccoは魂をこめて、命をかけて一曲一曲歌っている、本人に演出はないと言っても、実際レコード会社や事務所はCoccoを演出したでしょう。グランジを思わせる重厚なバックミュージックは、多くのロックファンの心をつかみました。ショウビジネスの世界で成功するための演出ノノその一方で、自虐的、自傷的、攻撃的、熱狂的、寂寥的なCoccoの歌詞世界はニルヴァーナのごとく暗い強度を増し、一度引退しなければ心身が持たない地点まで来てしまったのでしょう。

演出を必要とする多くのアーティストが目指しているのは、一切の演出がなくともすこぶる個性的な表現をするシャーマン的アーティストなのでしょうか。そのようなシャーマン的アーティストまで、ショウビジネスが課す演出によって精神的に追いつめられていくという実状ノノ表現者、創造者には感性の鋭さが求められますが、そういう人間には、精神的もろさも同時に備わっています。

Coccoがすこぶるポジティブに音楽を創造するくるりとの共同創造を通して音楽界に復帰したこと、うれしい限りです。


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(c) Sidehill