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くるり『THE WOLRD IS MINE』

この記事の最終更新日:2006年8月4日

THE WORLD IS MINE
THE WORLD IS MINEくるり

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くるりを借りようとして、間違えてクラムボンを借りました。クラムボンの才能に感動した2時間後、くるりのアルバムを借りて聴いたらこれまたびっくり。日本のロックも捨てたもんじゃない。

新しいテクノロジーがもたらされると、人は適応できないのではないかという不安を感じます。新しいテクノロジーを利用して、我々に新しい世界、価値観を体験させてくれるのがアーティストだとしたら(この芸術定義はマクルーハンを参考)、まさしくこのアルバムは総合芸術です。

デジタル技術を前にして、多くのロックミュージシャンおよびファンは、デジタル技術によってロックは淘汰されるのではないかと反応します。一方で、デジタル技術じゃ音楽のコアは何もつかまえられない、と新しいテクノロージに反発する人も現れます。旧式のロック・ミュージックとパソコンを駆使したデジタルミュージックは融合できるんだと、新技術と旧技術のどちらも否定せずに肯定的に関わっていくのが、アーティストの振る舞い方。

使用楽器に「pro tools」を記載したくるりは偉い。パーソナルコンピュータの初期開発者たちは、パソコンによって人間の生活が劇的に向上するという希望的観測を抱いていました。まだまだパソコンには可能性があります。テクノロジーの持つ可能性をどう引き出すかはユーザー次第。

マイクにエフェクターかければ、ロボットみたいな声にできるし、男の歌声を女声みたく高音に変換できます。これは面白いと、音楽初心者はみなマイク・エフェクターで遊びますが、このテクノロジーを楽曲に使用するまでにはいたりません。失敗が怖いんです。「THE WORLD IS MINE」ではロボットボイスも、超高音変化のエフェクトも、実に効果的に使われています。曲をぶちこわすことなく、楽曲に技術が見事にとけ込んでいます。テクノロジーの効果的使用によって、新しい驚き、新しい価値観が生まれています。

理屈ぬきでぶっ飛んだのは、1曲目「GUILTY」。冒頭、海底を漂流する潜水艦内部みたいな効果音が鳴り響く中、ゆっくりとアコギがフォーク調のコードをかきならします。

「いっそ悪いことやって
つかまってしまおうかな
欲しいものは諦めてる
持ってるものにも飽きてきた
どうにもならんし」

とボーカルがフォークシンガー風に歌います。
短い歌が終わるとゆったりしたギター音が続き、余韻が生まれます。
少年の抱える虚無感、犯罪への誘惑ノノ

突然ドラムが加速して、静寂から動の世界に転換します。エレキギターによるニルヴァーナやリンプ・ビズキットみたいなギター音の大爆発。

その後、またリズムがゆったりしたものに変化し、重厚なギターリフとリズム隊をバックに、女性のコーラスが鳴り響きます。単純な美メロの繰り返し。なんだか少年の心の奥底を覗いた後に、少年の気持ちの高ぶり、心の葛藤、夢、あきらめ、広い世界の可能性全部を体験した気分です。少年事件報道の裏にある、外からは見えない心の内部が音像となって出現した感じ。音楽の変化と一緒にいろいろなイメージが浮かんできました。自分自身が少年時代何を思っていたのか思い出したし、普遍的な人間の心を覗いた気がして、癒されました。

海外の一流アーティストの影響を強く受けているけど、パクリじゃない、テクノロジーをくるり独自の音楽に溶けこませているのがすごい。


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(c) Sidehill