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Odelay | |
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ベックは、エアロスミス、ガンズ・アンド・ローゼス、ソニック・ユース、ニルヴァーナなどを抱えていたメジャーレーベル、ゲフィンレコードより、1994年3月1日(カート・コヴァーンが自殺する1ヶ月前です)メジャーデビューアルバム「Mellow Gold」を発表します。
「Mellow Gold」一曲目であり、全米でヒットした「Loser」には、
「I'm a loser baby so why don't you kill me ?」
というフレーズがあります。負け犬の嘆きです。
「Loser」は、1992年に発表されたレディオヘッドの2ndシングル「Creep」へのアンサーソングだとも考えられます。「Creep」で歌われるのもまた、社会的負け犬の嘆きです。レディオヘッドは本国イギリスよりもアメリカでまず大ヒットします。90年代のアメリカには、社会の敗残者について語る歌が共感を呼んだのでしょう(社会状況とロックミュージックの相関性の分析については、また多くの考察を要します)。
負け犬の遠吠えというテーマは、いわゆるニルヴァーナ的状況に顕著なものでした。1994年4月、カート・コヴァーンが自殺してから、ニルヴァーナ的価値観の共有者であったレディオヘッドとベックの両者は、「ニルヴァーナ以後」のロックの牽引者になるだろうという、ファンとメディアの大きな期待を背負わされました。
レディオヘッドのフロント、トム・ヨークと、ベックと、カート・コヴァーンは三者三様、全く別の歌唱法だし、作曲内容も異なります。果たして誰が、グランジブームの次に来る、ロックの新しい波の牽引者となるのだろうか、期待は膨らみました。
レディオヘッドもベックも、カートの死である1994年4月以降発売されたセカンドアルバムでは、大きな音像変化を経験します。「Creep」、「Loser」というシングル曲のヒットによる一発屋というイメージから、両者とも真に創造的なアーティストへの変貌を遂げます。
レディオヘッドの1995年発表の2nd「The Bends」では、シンセサイザー、アコースティックサウンドが多用され、総合芸術としてのロックが奏でられます。
ベックの1996年6月18日発売のセカンドアルバム「Odelay」はグラミー賞2部門を受賞しています。ヒップホップ、カントリーへの更なる接近がはかられています。
両者ともギターとベースとドラムとボーカルだけのロックサウンドから、様々な音、ノイズを混ぜたミクスチャー的音響展開をみせています。
ロックの知的、実験的進化はしかし、ロックの衰退、没落でもありました。両者とも、カート・コヴァーンのような若者の熱狂を作り出すにはいたりませんでした。ごく一般的な多くの若者たちがある特定のアーティストの音楽を聞いて、興奮し、歌詞にも共鳴し、フロントマンの発言、メディア上での振る舞い、アティチュード、ゴシップ全てに絶大な興味と共感を寄せるという現象は、ロックにおいてはカート・コヴァーンを最大として、それ以後は沈静化しているようです。マリリン・マンソンやコーンなども健闘しましたが、90年代後半のロックはヒップホップ人気におされ、マーケット自体が縮小していきます。アメリカにおいてようやく現れたカート・コヴァーン的なカリスマは、エミネムであったと思います。
何故ロックが勢いを縮小したのか。最近にして思うのは、多くのメジャーロックアーティストを養ったゲフィンレコードの親玉、デヴィッド・ゲフィンが94年、スピルバーグと元ディズニーの売れっ子デヴィッド・カッツェンバーグと共に、ドリームワークスSKGを設立したためではないかと思います。レコード会社のトップがロックを離れて、複合娯楽産業に飛びこんだがために、ロックミュージックのマーケットが縮小したなんて、純粋な音楽ファンにとっては吐き気をもよおすような仮説ですが、ゲフィンレコードからは、94年のベック以来これはというアーティストが輩出されていません。94年はカートの死の年でもあります。デヴィッド・ゲフィンが音楽からマルチメディアに飛び出したことと、ロックのミクスチャー・ロック化現象は、共鳴しているとも考えられます。
ロック産業の運命を握っていたデヴィッド・ゲフィンの思想哲学研究が待たれます。